夕暮れ時、ふと風に誘われ外に出た。
時間が時間だけに人通りも少なく涼しい風が吹いていた。
日中のやうな照りつける日差しと人々の熱気は、
今やあの夕日と同じく向こうへと行ってしまったのであろう。
そのままぶらぶらと散歩をしていると
なにやら道端に櫛(くし)が落ちているではないか。
その櫛を拾い上げ辺りを見渡すと「ぽつん」と少女が一人。
少女は橋の方へとしずしずと歩いて行く。
この拾い上げた櫛の豪奢さにひけを取らぬそれまた煌びやかな
着物を着た少女だったので、私は直感的に持ち主だろうと思い
その橋へ歩いて行く少女に大声で呼びかけた。
だが少女は気づいた様子も無く歩いて行く。
ならばと思い私は全速力で駆け寄ると肩を掴んで
こちらを振り向かせた。

その少女には顔がなかった

いや、顔と言うのは語弊があるかもしれない。
その娘には顔のパーツがただの1つも存在していなかったのだ
そのくせ「※※※※」などと宣(のたま)ふ。
―嗚呼、何て無駄の無い顔なのだろう―
私の心に恐れと呼ばれるモノが入り込むその直前、
そんなことを思った・・・

(第4話へつづく)

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